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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)573号 判決 1968年3月01日

控訴人(附帯被控訴人)

原告

舟生嘉男

代理人

中村洋二郎

外二九名

被控訴人(附帯控訴人)

被告

八欧電機株式会社

代理人

鎌田英次

外一名

主文

原判決中主文第一項を左のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し金六千九百円を支払え。その余の控訴竝に附帯控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

<前略>そこで本件雇傭契約が右期間満了により終了するものであるか否かを判断する前提として右雇傭契約の性質について考察する。<証拠>を綜合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

被控訴会社の在籍人員の推移をみるに、控訴人が入社した昭和三十四年当時、九月三十日現在において常備従業員三千百九十二名に対し臨時従業員千二百六十一名、翌三十五年三月三十一日現在前者は三千五百四十九名に対し後者は千二百二十五名、同年九月三十日現在前者は五千八十名と増加したのに対し後者は六百二十四名と減少し、更に翌三十六年三月三十一日現在前者は五千三百十二名に対し後者は二百二十一名となり、前者に対する後者の比率が急激な減少を示していること。それは当時景気の上昇に伴い生産も急増し、その補充人員として採用した臨時従業員のうちから試験を行ない正規従業員に多数登用したことによること。しかし臨時従業員としての身分はあくまでも正規従業員としての登用を前提とした一つの過程(試用採用)ではなく、全く別の性格のものであることを会社、組合双方で確認していたこと、従つて正規従業員には労働協約、就業規則が適用されているが臨時従業員には労働協約の適用なく別個の臨時従業員就業規則(懲戒解雇等に関する規則がない)が適用されていたこと、被控訴会社が臨時従業員を採用するに当つては、二箇月ないし六箇月の範囲内で雇傭期間を定め、特約として会社明示の諸規則に違背した場合、不正の行為があつた場合若しくは勤務成績不良の場合は期間中でも即時解雇されても異議がない旨明記した雇傭契約書(乙第一号証参照)を徴し、更に契約を継続する場合にも右同様の書面を臨時従業員から交付を受けていたこと、採用条件も正規従業員とは異なり簡単な面接試験のみ行なわれていたにすぎず、只その年度内における作業計画に従いその必要に応じその都度採用されていたこと、尤も採用後の作業内容は雑役的補助的作業ではなく主として常備従業員と共同して作業場において基幹的作業に従事していたものであることが認められ、前掲各証拠中右認定に反する部分はいずれも採用しない。

前記認定の事実関係によると、控訴人を含む臨時従業員は、その作業内容の面からみるも、またその雇傭理由の面からみるも、特定の期間臨時的な作業のため雇入れたいわゆる臨時工ではなく、景気ないし季節的変動に伴う生産需給計画に備えて通常従業員の労働力の不足を補填するため一定期間を限つて雇傭契約を締結した臨時従業員であると認めるのが相当である。

控訴人は、その雇傭期間の更新を重ねてきている事実を把えて、控訴人を含め臨時従業員はもともと長期雇傭を予定されていたものであり、期間の更新は形式的で何等の合理性がないと主張する。しかし一定の限度までは雇傭量を恒常化することができても、景気変動の波が安定していない経済界においてそれに備え雇傭量を調整することは企業の採算上止むを得ないことであり、そのために設けられた臨時従業員制度の存在を理由なしとするを得ない。従つてただ期間の定めある労働契約が反覆更新されたという外形的事実のみでそれが形式的であるとは断ぜられない。

また控訴人が指摘するとおり昭和三十五年後期から翌年度にかけて臨時従業員の雇傭量が急減したことさきに示したとおりであり、そしてそれは組合の斗争がその一因をなしていることも前顕証拠から窺われ得るがそのことの故に控訴人が主張する如く、臨時工という名の下に実体は本工と差別待遇をする目的を持つ不合理な制度であるとの組合竝に世論に被控訴会社が屈服して、臨時従業員の殆どを正規従業員に組替えた結果であるということはできない。そのことは、前示認定の臨時従業員としての身分はあくまでも正規従業員としての登用を前提とした一つの過程ではなく、全く別の性格のものであることを組合も確認しておる事実に徴し疑いのないところである。

もとより、控訴会社において臨時従業員制度に藉口して何等合理的理由なく形式上短期間を定めた労働契約を締結し、この契約を反覆することによつて労働者保護の目的たる労働法規の適用を免れようとする意図が存する場合は、控訴人主張の公序良俗に反し無効とするとの法的根拠を生ずる余地があるが、被控訴会社において臨時工の有期労働契約の脱法性を認むるに足る証拠のない本件にあつては、期間の定めある労働契約が反覆更新されることにより期間の定めなき労働契約に転換する理由を見出し難い。また控訴人が被控訴会社と雇傭契約の更新を重ねることにより当然に両者の間に契約を更新する旨の暗黙の合意が成立したものと断定することは困難であり、その他右合意の成立を肯認できる資料はない。

そうだとすれば期間の定めある労働契約は期間の満了により終了するものと謂うべきところ、期間の定めある労働契約においても雇傭期間が反覆更新され被用者において期間満了後も使用者が雇傭を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合には、使用者が更新を拒絶することは実質上解雇と同視すべきであるからこのような場合には労働基準法第二十条の規定を類推適用して解雇の予告をするのが相当と解すべきである。

これを本件についてみるに、控訴人は昭和三十四年十一月被控訴会社に期間を二箇月とする臨時従業員として採用され、その後二箇月、更に四箇月と期間を定めて契約の更新を重ねたことは判示冒頭に示したとおりであり、原審における控訴人の供述によれば、期間満了後も雇傭関係を継続すべきことを期待し正規の従業員に切替えられることを念願していたことを認められるから、控訴人が右期間満了後も更に雇傭されるものと期待することに合理性がある場合に該当するものと謂うことができる。

ところで被控訴人は期間満了による雇傭関係の終了をも主張するものなるところ、さきに被控訴会社のした解除の意思表示は弁論の全趣旨により契約更新拒絶の意思表示を含むと解するを相当とすべく、右意思表示が有効であるためには少くとも三十日の予告期間の経過(予告手当の支給がないことは明白であるから)を要すべきである。

以上の事実によれば右解除の意思表示が控訴人に到達した昭和三十八年七月二十五日の翌日から起算して三十日後の同年八月二十四日の経過と共に控訴人と被控訴会社との雇傭契約が終了したものとみるべきである。従つて使用者たる被控訴会社は控訴人に対し右予告期間中の賃金を支払うべきものであり、他方控訴人はその間右会社の責に帰すべき理由により労務の給付をすることができない場合に当るから、右期間中の賃金給付を受ける権利を失わない。而して一箇月の稼動日数は平均二十五日であり、前記七月二十六日以降一箇月少くとも二十三日間稼動し得たものとの控訴人の主張は、反対の事実の認むべき証拠なき限り相当であると推認できるので被控訴会社は控訴人に対し右予告期間中の賃金として一日金三百円(日給の額は争いがない)の割合による二十三日分金六千九百円の支払をなすべき義務がある。

以上のとおりであるから原判決は被控訴人に対し賃金の支払額を変更した点を除きその余は相当で、本件控訴は右変更の限度において理由があるので民事訴訟法第三百八十六条により原判決の一部を変更しその余は失当として同法第三百八十四条によりこれを棄却し、本件附帯控訴は理由がないので同法条によりこれを棄却し、当審における訴訟費用につき控訴に要した部分は同法第九十五条、第九十二条但書を適用して控訴人の負担とし、附帯控訴に要した部分は同法第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。(毛利野富治郎 平賀健太 加藤隆司)

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